失敗も活用できれば貴重な財産になる
ミスや想定外の事態が起こるのは、嫌なものである。
先日、プレス成型を行っていた時の話だが、成型品の寸法や重量の値がなかなか安定しなかった。
値が公差の上限と下限を行き来していたため、数十ショットごとに確認を行っていた。
しかし、突然、原料の充填不良を起こして、成型品の重量が、公差の下限を大幅に下回ってしまった。
あわててプレスを止めて、確認を行ってみたところ、原料を金型に供給するフィーダーカップという部品があるが、その部品に貼られたゴムパッキンが剥がれかかって、金型に充填された原料をすくい上げていた。
なぜゴムパッキンが剥がれてしまったのか? 考えてみたものの、原因がわからない。
上司や先輩に相談してみたところ、金型を固定するためのナットが緩んで、金型が上昇してゴムパッキンに引っかかり、その結果、ゴムパッキンが剥がれてしまったのではないか、とのことだった。
そこで、上司や先輩に指摘された金型を固定するナットを確認したところ、彼らの指摘通り、ナットは緩み、金型がわずかに上昇していた。
金型を元の位置に下げ、ナットを締めて固定した。
それ以降は、寸法や重量の値は、あいかわらずバラツキがあったものの、ゴムパッキンが剥がれることはなくなった。
私にとって、このケースは初めて経験するものだったが、私自身の無知や不注意が招いたミスである。
なぜなら、数トンもの成型圧が生み出す衝撃によって、ナットが緩むことは十分予想されたため、始動時などに定期的な点検を行うことは必要不可欠だったからだ。
ただ、金型が破損しなかったのは、不幸中の幸いだった。
話は変わるが、「技術の継承」が社内で言われ続けて久しい。
正しい技術や知識の継承はもちろんではあるが、ミスや想定外の事例などもデータベース化して、同じような事例を知りたい人が、知りたい時に、知ることができるシステムを構築できれば、と思う。
過去にどのようなミスや想定外の事態が発生したのか、ベテランがそれらの事態をどう分析して、対処したのかという情報は、活用できれば会社全体にとって大きな財産になるだろう、と考えるからだ。
失敗情報を共有することで、誰にとっても嫌なものであるミスや想定外の事態が、ある程度予想されうるものになり、その結果、不良率の削減や、対応にともなう時間や原料のロスの削減につながるのではないか。
余談であり、少し古い情報になるが、畑村洋太郎『失敗学のすすめ』(講談社、2005年)によると、アメリカの某企業では、それぞれの製品ごとに事故や故障を含むすべての情報を体系的に整理し、門外不出として使用していたらしい。それだけ彼らが成功と同様に、失敗も重視していたという証左だろう。
中水野工場 製造部 K.S